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日本サルトル学会会報第28号 [会報]

Bulletin de l'Association Japonaise d’Etudes Sartriennes N°28 septembre 2010
日本サルトル学会会報              第28号 2010年 9月


研究例会の報告

 第25回研究例会が以下の通り開催されましたのでご報告申し上げます。

日時 : 7月10日(土曜日) 13:30~17:30
会場 : 立教大学(池袋キャンパス) 10号館X102教室

1.シンポジウム
「サルトルとニーチェ──清眞人『三島由紀夫におけるニーチェ』をめぐって」
コメンテーター: 岡村雅史 清眞人
司会者: 澤田直

 今回は初めての試みとして、サルトル以外の作家、三島由紀夫とこれに強い影響を与えたニーチェを論じる清氏の評論の、筆者自身による解説という形での発表であった。但し、それは単なる両者の比較検討ではなく、基底にサルトルの実存的精神分析を適用する点にその独自性がある。即ち、不可能なものを追求して全能力を使い尽くす様な人間を批評するには、従来の精神分析では不充分だとみなしたサルトルは『存在と無』で独自の精神分析を提唱するが、この理論を展開する代わりに、この方法でボードレールからフロベールにいたる多くの作家の分析を行なった。そこで取上げられたのは生きることの不可能な人間達であり、彼らは想像力によって生き難い現実を生きる時、妄想の中に自己を投入する。清氏はこういった人間を「想像的人間」と呼ぶ。その意味では、三島もニーチェもまさに想像的人間であり、存在論的に彼らを結びつける方法こそ、サルトルの手法である。ここに三者は関連づけられる。今回参加頂いた三島研究者の井上氏は、三島はかなりサルトルを読み込んではいたと思われるが、戦後民主主義の中で左翼思想の担い手と紹介されたこの作家に言及しにくかったとのこと。清氏のサルトル的分析には興味深いものが感じられるが、サルトル的分析ですべてを括ってしまうと、どれも同じになってしまうのではないか、アプローチの仕方に差異を見出す必要はないのか、という問いも発せられた。会場からも、呼びかけの問題、聖ジュネを通しての三島とサルトルの結びつき、文体の問題等々が問われた。清氏は、三島はデュオニュソス的なものに憧れつつも叶わず、屹立したアポロ的文体を求める作家だった。また後期サルトルの母親との身体的相互性を三島にも適用。生方氏の取り上げたマザーリングなどは呼びかけの問題に通じると説く。一方サルトルが本質論を先行させすぎた分析、例えば「幼少時のトラウマで同性愛になる」などは、異性愛のみを前提とするやや一括しすぎたものという声もあるが、氏はこの点ではサルトルがニーチェを批判することでサルトルとなりえた様に、様々な要素を異種交配しつつサルトルを批判的継承することが肝要と述べられた。こういった継承や、あまり注目されていない実存的精神分析の再考は我々サルトル研究者の今後の課題ともなろう。(報告:岡村雅史)

2.研究発表
「野生の暴力と国家の暴力──サルトル思想とf現代の日本社会」
発表者: 永野潤
司会者: 北見秀司

永野氏は今年一月に『狂気と演技—サルトル自由論の再検討』と題する博士論文を東京都立大学に提出された。今回の発表は、その一部をなす暴力論を中心に行われた。以下、その要旨である。
資本主義社会は抑圧的な社会であり、その集列的構造によってサルトルが根源的自由と考えるものを抑圧する。しかし、「抑圧する者」の暴力は構造的暴力となり、見えにくくなっている。その結果、これに抗する「抑圧される者」の暴力ばかりが見えやすくなり、非難される。
この二つの暴力の対立は二つの「司法=正義justice」すなわち「国家に属する司法=正義」と人民の「野生の司法=正義」の対立に呼応している。それぞれ背後に「国家の暴力」と「野生の暴力」が控えている。ところが「国家の暴力」は合法性を備えているため、暴力的には見えない。このような暴力が「社会的平和」を支えているため、この「平和」は暴力としての平和なのである。そして、この「国家の暴力」の合法性が民衆の「野生の暴力」の正当性を虐殺する。更に永野氏は、このような事態が今日の日本において頻発していることを例証した。
ところでサルトルは、「国家の暴力」を非難し、「野生の暴力」を「ヒューマニズムそれ自体」であるとして肯定する。後者の暴力は、非人間的な抑圧への「拒絶」であり、「新しい正義」の要求をふくんでいるからである。そして後者の暴力を認めない者をサルトルは批判する。「平和主義者」は、左翼のそれを含めて、結局のところ、「国家の暴力」や植民地主義の暴力を是認することになるとして、批判するのである。
発表後、活発に質問が寄せられ、その多くはサルトルによる暴力肯定の解釈に集中した。このような解釈は、「やられたらやりかえせ」の論理と同じになってしまわないか。サルトルが「抑圧される者の」暴力を擁護する時、そこには様々なニュアンスが加わっていないか。たとえば、ファノンを論じてサルトルがアルジェリア独立闘争における原住民の暴力を肯定する時、その闘争が独立後に報復措置を意図していないことを知っての上での肯定ではなかったか。また、このような解放を求める闘争のための暴力が独立後、セクト争いや抑圧的な暴力に転化する危険性をファノンは十分承知していたが、『弁証法的理性批判』においても扱われているそのような問題はどう考えられるべきか。
サルトルの暴力に関する考えは、彼の思想の中で、もっとも扱いにくい問題であるように思われる。このような難問に果敢に挑戦した永野氏に敬意を表するとともに、今回出された様々な質問を踏まえ、一層深い考察が今後進められることを大いに期待したい。(北見秀司)


3.総会
シンポジウム、研究発表の後、総会が行われました。

・ 今後の例会のテーマについて、会場から様々な意見が出され、議論がおこなわれました。出された案の一例です。
・ カイエのワークショップの続き
・ レヴィナスとサルトル、デリダとサルトルのテーマでのシンポジウム
・ 『自由への道』改訳をめぐって海老坂氏を中心とした企画
・ 新訳『嘔吐』出版を機会に鈴木道彦氏を中心とした企画
・ 他の学会とのジョイント企画を行う(例:ハイデガー・フォーラム、バタイユ研究会)
・ 北見氏著作書評会(2011年度以降に行う)
・ ミシェル・コンタ氏など、来日の意向がある研究者を招聘するという案(予算は当学会以外から出す形になる)(2011年度)

・ 会則の改訂案(会長に関する条項を追加)が提出され、会場の承認を得ました。
・ 鈴木(道)の会長留任、澤田・鈴木(正)黒川・岡村・永野の理事留任、また、あらたに森功次(東京大学大学院)の理事就任が、会場の承認を得ました。

事務局からのお知らせ

☆ 総会の報告でも述べましたが、今後の例会の企画を広く募集しています。とりあげてほしいテーマがありましたら、ぜひ事務局までお知らせください。
☆ 若手のかたをはじめとして、研究発表の発表者も募集します。自薦他薦を問いませんので、事務局までお知らせください。
☆ GESで、Ecrits de Sartre増補改訂版の計画があります。従来版にある明らかなまちがいにお気づきの方は、澤田、あるいは事務局までお伝えくださると幸いです。
☆ 日本で発表された研究の書評をGESのbulletinに載せることが可能です。執筆の予定がある方は、澤田、あるいは事務局までご連絡ください。


サルトル関連出版物

・ 今村和男著『人間の出口』杉並けやき出版、2007年12月
(70年安保世代の著者が、学生時代から現在までいかにサルトルを読みつつ社会批判、資本主
義批判の視線を培ってきたかを熱く語る貴重な証言)

日本サルトル学会会則

日本サルトル学会は一九九五年六月、鈴木道彦、海老坂武、石崎晴己、澤田直を発起人として、世代を越えたサルトル研究者の自主的組織として成立したサルトル研究会を改組改称したものである。会の活動の指針として、以下の会則を定める。

第一条 本会は日本サルトル学会Association Japonaise d’Etudes Sartriennnes と称する。
第二条 本会は会員相互の研鑽を通じて、サルトル及び関連分野の研究とその発展を図ることを目的 とする。
第三条 本会はこの目的を達成するために次の事業を行う。1 研究発表会、研究会等の定期ならび随時開催。2 会報、資料集の刊行。3  サルトル関係資料、研究文献の情報整理及び紹介。4 国内外の関連分野の研究団体との交流。5 その他必要な事業。
第四条 本会は上記の目的に賛 同する研究者をもって会員とする。二、会員は本会の事業に参加し、またそれに関する意見を述べることができる。三、会員は別途定める年会費を年度初めに収 めるものとする。四、三年にわたり会費を滞納した場合は、退会したものとみなす。
第五条 本会は年一回定期総会を開催する。また必要に応じて理事会の発議により臨時総会を開催することができる。総会は最高の議決期間であり、会の活動方針を決定し、理事会より必要な報告を受けかつ承認する。 二、総会は出席者の過半数により議決することができる。
第六条 本会に次の役員をおく。任期は二年とする。役員は総会の承認を受けなければならな い。1 会長 会長は本会を代表する。理事会の推薦に基づき、総会にて承認される。2 理事会 若干名。総会において選出する。理事会は会の運営と事務にあたる。3 会計監査。理事会の推薦に基づき総会において選出する。二 理事会は総会において一般報告、会計報告その他の報告及び提案を行い、決定された方針を執行する。会計監査は年度事に会計を監査する。
第七条 本会則の改正は発起人、理事会あるいは出席会員の発議に基づき、総会の議決を経てこれを行う。
細則第四条三、 細則、年会費は 一般会員二〇〇〇円、学生会員一〇〇〇円とする。
二〇〇〇年七月(二〇一〇年七月改訂)


日本サルトル学会  AJES  Association Japonaise d’Etudes Sartriennes
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