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日本サルトル学会会報第72号 [会報]

会員のみなさま、 第72号会報でお知らせしました、次回12/17(土)の例会のご案内のところで、ご発表予定の、張 乃烽 さんのお名前を間違ってご紹介しておりました。張さんご本人とみなさまにお詫びして訂正をいたします。本当に申し訳ございませんでした。 日本サルトル学会理事会

研究例会のご案内

 下記の通り、第50回研究例会を対面ハイフレックス(=ハイブリッド)で開催しますのでご連絡いたします。
 今回の研究例会は、張 乃烽氏(立教大学大学院博士課程)の研究発表を予定しております。
登録フォームを用意しましたので(下記 URL 参照)、対面参加をご希望の方は、開催校にリストを提出する都合上、12月7日(水)17: 00までに、オンラインでの参加ご希望の方は12月16日(金)12: 00(日本時間)までにご登録をお願いいたします。
 当学会では非会員の方の聴講を歓迎いたします(無料)。多くの方のご参加をお待ちしております。

第50回研究例会

日時:2022年12月17日(土) 16 : 00 - 17 : 30
場所: 対面ハイフレックス(=ハイブリッド)開催
   立教大学池袋キャンパス本館1204 教室
※フランスからの参加も想定し、夕方からの開催となっております。ご注意ください。

【プログラム】
16: 00:開会挨拶
16: 05:研究発表
発表:張 乃烽 氏(立教大学大学院博士課程)
 「サルトルの情動論における心身問題」(仮)
司会:赤阪 辰太郎 氏(大阪大学)

※今回は、対面ハイフレックス(=ハイブリッド)開催のため懇親会は行いませんのでご了承ください。
参加登録フォーム URL : https://forms.gle/DAHGD2HPUHAfpPdr9

※zoom開催に関する細かな注意は、こちらのフォームにてお知らせします。なおこのURLはサルトル学会のブログにも掲示いたします。そちらもご利用ください。


研究例会のご報告

 2022年7月30日(土)に下記の通り、対面ハイフレックス(=ハイブリッド)方式により、第49回研究例会を開催しましたのでご報告いたします。今回の研究例会では、「サルトル『家の馬鹿息子』翻訳完結をうけて」というシンポジウムがおこなわれました。以下、報告文を掲載いたします。


第49回研究例会

日時:2022年7月30日(土) 14 : 30 - 18 : 00
場所: 対面ハイフレックス(=ハイブリッド)開催
   立教大学池袋キャンパス9号館9B03 教室

シンポジウム「サルトル『家の馬鹿息子』翻訳完結をうけて」
       司会:鈴木 正道(法政大学)
       発表:小倉孝誠(慶應義塾大学)
        「フロベール研究者として『家の馬鹿息子』をどう読むか」
       黒川学(青山学院大学)
        「『家の馬鹿息子』における読者の誤読」
       澤田直(立教大学)
        「『家の馬鹿息子』における挫折をめぐって」


サルトル学会第49回研究例会報告 鈴木正道

シンポジウム「サルトル『家の馬鹿息子』翻訳完結をうけて」
 まず翻訳者の一人である澤田直氏が、そもそもサルトルのフロベール論『家の馬鹿息子』とはどのような本であるか、邦訳がどのような経緯で完成したかという説明を行った。翻訳者の一人である海老坂武氏の言葉によると、この著作はサルトル思想の集大成であり、サルトル全体を理解するうえで不可欠であるということである。

 「フロベール研究者として『家の馬鹿息子』をどう読むか」 小倉孝誠 氏
フロベール研究者としての小倉氏は、本著作を、19世紀半ばの文学、思想、政治状況の分析を通したフロベール世代の特徴付けであると同時に、サルトルの晩年の代表作として捉え、その意味で意義深いものとした。
 そのうえでフロベールの研究者がこの著作に対して冷淡であったことを指摘し、その理由を考えた。まずサルトルは、フロベールの幼少期が家父長的な家庭環境に大きく影響されており、彼の「神経症」はこれから逃れようとする戦略だったとするが、これは資料の裏付けの乏しい恣意的な解釈であると研究者は考えている。
 また原書の第1巻と第2巻はほぼフロベールの初期作品のみを扱っており、第3巻は『ボヴァリー夫人』以降の作品にも触れてはいるものの、個別の作品論としては深められていない。『ボヴァリー夫人』を扱う予定だった第4巻のためのメモは断片的である。
 そのうえで小倉氏は、サルトルによるフロベールの初期作品、『初稿感情教育』、『聖ジュリアン伝』の分析は刺激的な解釈を含むこと、特に第2帝政期の文学状況の哲学的および歴史社会学的な分析が興味深いこと、そしてサルトルの議論が20世紀末から現在までの文学分析の刷新の先駆となっていることを指摘した。
 さらに小倉氏は個人的に興味を抱いた点を述べた。まず、少年ギュスターヴは言語と世界の乖離を意識し、初期作品はそれを乗り越えようとする試みであるとされている点。通常は、伝記的事実が作品を説明するとされるのに対して、サルトルは「実存的精神分析」を用いて、初期作品から彼の伝記の影の部分を照らし出そうとした点など。その他『家の馬鹿息子』の各部に沿って、フロベールの世代と宗教、フロベールの女性性、両性具有性、フェティシズム、読者層の大衆化、芸術至上主義、ルコント・ド・リールへの参照、第2帝政の作品への反映、などに触れる。
 そしてブルデューの「文学場」の考え方にも通じる文学社会学的な視点を切り開き、またフロベールの研究者にも問題提起を提供したという意味で、小倉氏はサルトルの著作に現代的な意義を認めている。
 フロベールよりもサルトル自身の事をよく伝えていると皮肉られ、また大部で未完というサルトルの著作の傾向を極端に具現したような『家の馬鹿息子』を、フロベール研究者たちはどのように考えているかと言う問いに正面から取り組んだ発表であった。小倉氏の本著作への思い入れは必ずしも他のフロベール研究者の考えをあまねく反映したものではないかもしれないが、世紀の大事業とも言える本著作の全訳完成を寿ぐ講演であったと言えよう。

会場からは、フロベール研究者から見ると、家父長的な父親との確執を作品や他の資料に見出すことに無理があり、それがサルトルのフロベール論を受け入れがたいものとしているとの指摘があった。

『家の馬鹿息子』における読者の誤読             黒川学 氏
 翻訳者としての黒川氏は、サルトルの読書論に注目する。1940年代の『文学とは何か』においてサルトルは文学作品を読者の自由への呼びかけとして捉え、読者の参加があって作品は出来上がるとしていた。『弁証法理性批判』を経て、『家の馬鹿息子』に至ったサルトルは、言語を実践的惰性体として捉え、作品の物質性により重きをなす考え方を取るようになった。サルトルによると19世紀半ば以降のフロベールの時代における読者層として自由業や教育に携わる知識層が考えられ、それに対してあえて読まれることを求めない作家たち(無の騎士たち)が登場した。こうした読者たちは、不透明な物質としての作品を自分なりに読むという誤読を行うようになった。彼らは神経症の産物としての作品を読み、何の拘束もなしに憎悪を体験した。しかしこのことにより却って読者はより自由になったとも言える。

『家の馬鹿息子』における挫折をめぐって          澤田直 氏
 「挫折echec」は『家の馬鹿息子』の全体に現れるテーマであるということだが、澤田氏は特に最終巻に絞って論じる。サルトルは、新興ブルジョワジーの勝利により自らの階級の無能さを感じたロマン派の作家たちが、挫折感を一般化し、芸術と挫折を結びつけたと考える。これが「19世紀の客観精神」だというのである。彼らは選ばれた人間に傑作を贈与する。それに対してフロベールなどのポスト・ロマン派は、贈与する相手を持たず、自己救済を目指す。想像としての芸術が現実としてのブルジョワジーを破壊することを望む。フロベールは「神経症」を通して挫折のかなたの「絶対」を目指す。そこに至るためには、芸術家、人間、作品の三重の挫折が前提となる。サルトルは、フロベールを、挫折を演じるだけのル・コント・ド・リールと比較する。
 サルトルは、1920年代から1940年にかけての論文や著作以来、『言葉』に至るまで想像力についてほとんど語っていなかった。しかしサルトルは、ポスト・ロマン派の作家は、現実界での挫折を通して絶対的な想像の美の世界を創ろうとしたとする。澤田氏は、この現実における挫折に対応する術としての想像力と言う考えの原形を1939年に刊行された『情緒論素描』に見出す。ここにおいて「情動」が身体的なものとされている点でも、フロベールの「神経症」の発作とつながると言える。

 聴衆からは、サルトルにおける想像力の問題について様々な質問が出た。澤田氏は、初期の哲学的著作においては、知覚(存在)と想像(非存在)が二律背反の意識の在り方として捉えられていたのに対して、『家の馬鹿息子』では、現実と想像に二股をかけた態度が鍵になっていると述べた。また50年代の『聖ジュネ』や『キーン』、『アルトナの幽閉者』では現実と見せかけの対立がテーマになっていると述べた。そして『弁証法理性批判』に至っては、想像されたものはむしろ共有されるものとして捉えられているということである。
 また現在では癲癇と考えられているフロベールの発作を、サルトルが「神経症」としてフロベール論の要に据えているのは、父親との確執、挫折としての想像力というテーマに収斂させる必要からではないかとの指摘もなされた。

理事会からのお知らせ

・日本サルトル学会では、研究発表・ワークショップ企画を随時募集しています。発表をご希望の方は、下記のメールアドレスにご連絡下さい。なお例会は例年7月と12月に開催しています。
・会報が住所違いで返送されてくるケースが増えています。会員の方で住所、メールアドレスが変更になった方は、学会事務局までご連絡ください。なお、会報はメールでもお送りしています。会報の郵送停止を希望される方は、事務局までご連絡ください。


以上

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