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新刊のご紹介 [サルトル関連出版物]

新刊のご紹介(生方淳子)

 本学会のメンバー二名が最近それぞれ出版した二冊の著書を紹介します。
二冊ともサルトルを中心テーマにした本ではありませんが、実は深いつながりが見出せるサルトリアンならではの本です。


石崎晴己著『ある少年H』、吉田書店
 題名からすると自伝的作品と思われますが、それを越えてまさに「単独的普遍」を語る試みです。第二次世界大戦直後の日本を生きた一少年の体験をとおして紡がれる歴史の証言であり、文明批評であり、人間論・教育論でもあります。サルトルにも少なからぬページが割かれており、『存在と無』、『言葉』、『ユダヤ人問題』、『家の馬鹿息子』が取り上げられ、サルトルの伝記的事実にも考察が加えられています。研究書の枠にとらわれないエッセイならではの自由闊達さで、随所にサルトル思想の神髄が盛り込まれています。
石崎.png
出版社HP
http://www.yoshidapublishing.com/booksdetail/pg730.html


永野潤『イラストで読むキーワード哲学入門』、白澤社発行、現代書館発売
 意表をつく哲学入門書です。お決まりの哲学用語が並び、平易に解説されているのではなく、見事な独断で選ばれたと思われる52のキーワード各々について、マンガや映画や音楽、絵画、そして時事問題をも巻き込んだ思考のエッセンスが披露されています。著者自身が描いた少々謎めいたイラストが項目ごとに添えられ、それに導かれるように普段私たちが見ようとしない世界の側面が顔をのぞかせます。サルトル哲学に関しても「不安と自由」、「対他存在」、「実存と本質」などが(サブ)カルチャーと重ねて語られています。
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出版社のブログ
https://hakutakusha.hatenablog.com/

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第43回研究例会「サルトルとアルジェリア戦争:アルジェリア側の視点からの再考」要旨 [研究例会のお知らせ]

2019年7月13日(土)14 :00~の第43回研究例会
https://ajes.blog.so-net.ne.jp/2019-06-02

茨木博史(在アルジェリア大使館)
「サルトルとアルジェリア戦争:アルジェリア側の視点からの再考」
司会:竹本研史(法政大学)

要旨
サルトルがアルジェリアの植民地問題について発言するようになるのは、1950年代に入ってからのことである。1954年に勃発したアルジェリア戦争にサルトル自身がコミットしていく前に、彼の主宰する『現代』誌は既に反植民地主義の立場を明確に打ち出していた。1953年1月には、後にアルジェリア共和国臨時政府の首班となるフェラト・アバースが率いるレピュブリック・アルジェリエンヌ紙にサルトルのインタビューが掲載される。この中で彼は、「コロン」の人種主義がフランス本国にも有害なものであり、植民地の問題はフランスの民主主義のそれと分かちがたく結びついているという見方を示している(1) 。1956年に発表された「植民地主義はシステムである」においては「良いコロンと悪いコロンがいるのではない。コロンがいる、それがすべてだ」と喝破したうえで、アルジェリア人と本国のフランス人の双方を植民地主義の専制から解放しなければならないと説いた (2)。サルトルが用いる「コロン」の概念は粗雑な面があるものの、「コロン」による被植民者の非人間化、本国の人権や民主主義の原理の植民地での否定という図式に基づき、フランス軍による拷問問題についてもフランスを「恥辱」から救わねばならないとした(3) 。
 フランス本国でアルジェリア戦争の遂行に反対する陣営の中心的存在となったサルトルであったが、当時のアルジェリアでは知識人の著作やFLMの機関紙等において、サルトルに対する直接的な反応は、時おり名前が言及される程度でほとんど見られない。アルジェリアでの直接的な反応は少ない原因としては、ラムシが指摘するようにサルトルの言論が本国のフランス人を明確な宛先として書かれていることを(4) 、その一つとして推定できるだろう。他方で、「植民地主義はシステムである」が発表された1956年1月のパリのミーティングでは、アルジェリア人の詩人ジャン・アムルーシュが招かれ、『現代』誌はやはり作家のカテブ・ヤシンや独立後のアルジェリアで教育相を務めるムスタファ・ラシュラフらに度々執筆の場を与えた。また、サルトルの思想、「人間」の概念に影響を受けたフランツ・ファノンはアルジェリア戦争が始まるとFLNのスポークスマンとなり、党の公式言説もしばしばサルトル-ファノン的な色調を帯びることとなる。ファノンの他にも、やはり『現代』誌に執筆し、FLNと密な交流を持ったモーリス・マスチノのような人物もいる。
本発表では、サルトル自身の言論と彼の協力者たちが、アルジェリア戦争期にアルジェリアにもたらした影響とはどのようなものであったか、言説分析の観点及び受容・影響の観点からあらためて検討したい。

(1) La République algérienne, le 9 janvier 1953.
(2) « Colonialisme est un système », Situations, V, p.89-111.
(3)« Une Victoire », Ibid, p.326-340.
(4)Lamouchi, Noureddine, Jean-Paul Sartre et le Tiers monde, L’Harmattan, 1996, p.212-216.


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