SSブログ

日本サルトル学会会報第74号 [会報]

研究例会のご報告

2022年12月17日(土)に下記の通り、対面ハイフレックス(=ハイブリッド)方式により、第50回研究例会を開催しましたのでご報告いたします。今回の研究例会では、張乃烽氏による研究発表がおこなわれました。以下、報告文を掲載いたします。 


第50回研究例会報告

日時:2022年12月17日(土) 16 : 00 - 17 : 30
場所: 対面ハイフレックス(=ハイブリッド)開催
   立教大学池袋キャンパス本館1204 教室

【プログラム】
16: 00:開会挨拶
16: 05:研究発表
発表:張 乃烽 氏(立教大学大学院博士課程)
 「サルトルの情動論における『一元性である二元性』なるもの」
司会:赤阪 辰太郎 氏(日本学術振興会特別研究員 PD )


張乃烽「サルトルの情動論における『一元性である二元性』なるもの」報告

張氏の発表は、サルトルの前期哲学、とりわけ『情動論素描』および『存在と無』を中心的なコーパスとし、サルトルの哲学に胚胎する「一元性である二元性」という特徴とそのポテンシャルを測る内容であった。
張氏はまず、「情動」の概念史をA. コルバンらによる『感情の歴史』などを参照しながら振り返り、サルトルが情動概念について考察を進めた際の理論的な布置を整理された。情動をめぐっては以前よりそれが身体=物質的なものか、精神的なものか、といった二元論的な構図から論じられる傾向があったが、それを単なる生理的表出としてでも、精神に割り振られるものとしても扱うのではなく、「世界についての意識=世界を把握する仕方」という形で、意識と身体を一つの全体として結び合わせる「一元性であるような二元性」として提示した点に、サルトルの貢献はあった。
続いて、情動のもつ目的志向的な合理的性格と、非合理的な信憑にも結びつく魔術的性格との関係を、『情動論素描』の記述を出発点に考察された。さらに、張氏はこうした対立的に見える構造は、『存在と無』における意志的行為と情念との対比のなかにも見出されるのではないか、と問いかけた。
こうした予備的な考察を経て、張氏はサルトルの情動理論を、意識と身体をいかに捉えるかという「心身問題」として再提示しうるものだと論じた。身体と意識の関係については『存在と無』においても主題の一つであるが、この問いに情動論の視角から光をあて、「一元性である二元性」というサルトル哲学の特徴と結びつけた点に張氏の独創があったのではないか、と報告者は考える。
質疑のなかでは、サルトル自身の『存在と無』の叙述の行程のなかで張氏の議論をどのように位置づけるか、という問いや、対他身体をいかにして上記の構図のなかから、あるいはそれと繋がる形で考察するか、という問いが投げかけられた。
発表ではベルギー・リエージュを中心としたフランス語圏で近年進んでいる人類学との関連を考慮した前期サルトルの再評価なども参照されており、現在進行中の研究との接続など、今後の研究の進展に期待したい。(文責:赤阪辰太郎)


日本サルトル学会学会誌発刊のお知らせ

このたび、日本サルトル学会では、年次発行の学会誌(電子ジャーナル)を発刊することになりました。第1号の刊行は2023年10月を予定しています。カテゴリーと文字数は以下の通りで、編集委員会による査読があります。

・「論文」(25,000字程度)
・「研究ノート」(16,000字程度)
・「書評」(1,000字以上3,000字以内)
・「翻訳」(まずは編集委員会にご相談ください)

サルトルに関連する内容であること、会員であることが投稿の要件となります。(投稿を希望してからの入会も可能です)投稿を希望される方は、詳細をお伝えいたしますので、学会事務局アドレス(ajes.office@gmail.com)にご連絡ください。原稿の締め切りは5月末を予定しています。

またこれにともない、学会誌の名称と表紙デザイン案を公募します。締め切りは3月末とし、応募いただいたご提案のなかから学会誌名・表紙デザインを理事会にて決定させていただきます。下記フォームより、奮ってのご応募をお待ちしております。よろしくお願いいたします。

https://forms.gle/kQWm5wWGSrrhiG669


日本サルトル学会学会誌編集委員会

サルトル関連文献

*著作

・熊野純彦『極限の思想:サルトル――全世界を獲得するために』、講談社選書メチエ、2022年。
・シャルル・ペパン『フランスの高校生が学んでいる10人の哲学者』永田千奈訳、草思社、2022年。
・シモーヌ・ド・ボーヴォワール/『第二の性』を原文で読み直す会訳『決定版 第二の性I 事実と神話』河出文庫、2023年。

*論文

・澤田直氏による下記論文は、本学会第49回例会(2022年7月30日(土))で実施されたシンポジウム「サルトル『家の馬鹿息子』翻訳完結をうけて」にて、同氏が発表した論題「『家の馬鹿息子』における挫折をめぐって」を発展させたものです。
Nao Sawada, ≪ L’obsession de l’echec chez Sartre ≫, in : Studi Sartriani ? XVI/2022 ? Sartre e le psicobiografie. La scrittura dell’esistenza, p. 39-58.
https://romatrepress.uniroma3.it/wp-content/uploads/2022/12/02-Nao-Sawada.pdf

・小熊正久「サルトルの想像論における心的アナロゴンについて」、『山形大学大学院社会文化創造研究科社会文化システムコース紀要』 第18号、2021年、51-70頁。
https://www-hs.yamagata-u.ac.jp/wp-content/uploads/2021/09/6d1e3e2f543fd20951509259f42c1d65.pdf
・竹本研史「スターリンの特異性――サルトル『弁証法的理性批判』第2巻におけるソ連論について」、『人間環境論集』、法政大学人間環境学会、第23巻第2号、2023年、25-66頁。
https://hosei-hondana.actibookone.com/content/detail?param=eyJjb250ZW50TnVtIjoyNzE4NDIsImNhdGVnb3J5TnVtIjoxMzAxNH0=&pNo=1
・松本剛次「主体性,あるいはサルトル的実存へ向けての実践=研究」、『言語文化教育研究』、言語文化教育研究学会:ALCE、第20巻、2022年、376-389頁。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/gbkkg/20/0/20_376/_article/-char/ja/
・橋爪恵子「ガストン・バシュラールにおける芸術の社会「貢献」 : サルトルを媒介として」、『國學院雜誌』第123巻11号、191-203頁。
・京念屋隆史「サルトル想像論における「準観察」のテーゼ : 想像と知覚の差異について」、『大学院紀要』法政大学大学院、第89巻、2022年、10-19頁。
https://hosei.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=26057&item_no=1&page_id=13&block_id=83
・細貝健司「超越論的意識と自己性の回路 : サルトルはなぜバタイユに対しあれほどまでに激しい批判を行ったのか?」、『立命館経済学』第71巻 2/3号、2022年、20-48頁。
https://cir.nii.ac.jp/crid/1390575993931867264
・翠川博之「サルトル初期戯曲の研究 I 『バリオナ』のミステール」、『東北学院大学教養学部論集』、第188号、2021年、89-117頁。
・翠川博之「サルトル初期戯曲の研究 Ⅱ 『蠅』における自由」、『東北学院大学教養学部論集』、第190号、2022年、23-46頁。


理事会からのお知らせ

・日本サルトル学会では、研究発表・ワークショップ企画を随時募集しています。発表をご希望の方は、下記のメールアドレスにご連絡下さい。なお例会は例年7月と12月に開催しています。
・会報が住所違いで返送されてくるケースが増えています。会員の方で住所、メールアドレスが変更になった方は、学会事務局までご連絡ください。なお、会報はメールでもお送りしています。会報の郵送停止を希望される方は、事務局までご連絡ください。
・ 学会のwebサイトをリニューアルして再開しました。
https://sites.google.com/view/ajes1905/
従来ブログに掲載してきた会報やお知らせは、今後は新しいwebサイトに掲載することになりました。それにともない、今後ブログの更新は停止します。

以上
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:学問

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。