SSブログ

日本サルトル学会会報第34号 [会報]

研究例会の報告

 第29回研究例会が以下の通り開催されましたのでご報告申し上げます。

日時 : 7月8日(日) 14:00~17:00
会場 : 立教大学(池袋キャンパス)マキムホール202教室

研究発表1
「いわゆる「サルトル・カミュ論争」におけるサルトルのテクスト「アルベール・カミュへの回答」再検討」
発表者:石崎晴己(青山学院大学)
司会 :東浦弘樹(関西学院大学)
コメンテーター:伊藤直(青山学院大学)

 カミュ・サルトル論争を正面からとりあげ分析することに一体どんな意義があるだろうか。大抵の論争がそうであるように、この論争もまた議論がかみ合っておらず、双方ともインテリらしい――あまりにもインテリらしい――言辞を弄しているが、内実は子どもの喧嘩にすぎない。だから、当時の政治的状況に沿って、あるいは21世紀の今日から振り返って、どちらが正しかったかを論じても意味があるとは思えない。しかし、石崎晴巳氏はサルトルの「アルベール・カミュへの回答」を『言葉』を予告する「自己批判の書」と考えた。そこに石崎氏の慧眼がある。
 石崎氏は「アルベール・カミュへの回答」でサルトルが描き出すカミュ像のなかには、官僚・神秘・司法・警察・人種主義などサルトルが嫌悪するものすべてが詰め込まれているとした上で、そこにはサルトル的な「下種野郎」(salauds)のイメージがみられると指摘する。さらに石崎氏は、「カミュは歴史とは無縁であったが、レジスタンスの経験を通して歴史に参加するようになった」というジャンソンの図式をサルトルが踏襲し「内的」に分析していることについて、この批判は捕虜収容所経験によって初めて歴史に目覚めたサルトルにこそふさわしく、戦前の「世界の永遠の不正」との戦いの延長としてレジスタンスに参加したカミュの姿勢の方がむしろ「本来的」であると述べている。つまり、サルトルの語っていることはカミュに向けられたものである以上に自分自身に向けられたものであり、そうであるからこそ過剰なまでに激しくカミュを攻撃することができたというのである。
 例会では、「アルベール・カミュへの回答」でサルトルがカミュの『ドイツ人の友への手紙』を「誤読」して引用していることを指摘し、石崎氏の考察のきっかけをつくった伊藤直氏をコメンテーターに迎え、時間の制約はあったものの活発な議論がかわされた。最後にひと言、長年カミュを研究している者として、カミュが1935年に共産党に入党しイスラム教徒に対する情宣活動に従事した(1937年に離党)こと、1938年『アルジェ・レピュブリカン』紙に入社後、ジャーナリストとして当局の不正を告発したことを付け加えておきたい。カミュは戦前から「参加した人間」であり、サルトルやジャンソンが言うような「歴史とは無縁な地中海人」ではなかったのである。(東浦弘樹)


研究発表2
「サルトル倫理思想におけるエコノミーの影」
発表者:小林成彬(一橋大学大学院)
司会:翠川博之(東北大学)

 利己的であることを禁じる「公正」という倫理規範は、もともと社会関係のなかで同等の力をもつ者が利己的に行っていた「交換」に起源を持っている。ニーチェが『人間的な、あまりに人間的な』で示したこの見解を、彼から大きな影響を受けた若き日のサルトルが見過ごしたはずはない。サルトルの倫理思想に「エコノミーの影」が見えるのもその影響のひとつではないか。これが小林氏の見立てである。卒業論文の成果をまとめた本発表は、倫理と経済とが交叉する思想領域を『嘔吐』、『文学とは何か』そして『聖ジュネ』に探りつつ、サルトルにおける倫理学構想の深化あるいは変遷を跡づけようとするものであった。
 『嘔吐』においてロカンタンが孤独のなかでついに「実存」を見いだし得たのは、金利生活者である彼が社会における「物質の交換」から除外されていたからだ、というのが最初の考察の結論である。続いて、『文学とは何か』および『聖ジュネ』における「贈与」が考察された。『文学とは何か』におけるサルトルの立論、すなわち、倫理的問題を特権的に主張する文学は非人称の作者から社会に贈られる純粋贈与であるとする立論をまず再確認したうえで、この論理を『聖ジュネ』にも敷衍しようとしたのが小林氏の独創であり、本発表最大の争点でもあった。『聖ジュネ』では、確かに「贈与する者」と「贈与される者」との非対称性が惹起する権力関係が否定的に言及されている。しかしそれは物質的次元での「贈与」を指しているのであって、ジュネが行った芸術作品の創造はむしろ「物質を非物質的化」した「贈与」と見るべきである。氏による第二の考察の結論はこのように要約できるだろう。
 質疑応答では、まず「エコノミー」という言葉の定義の曖昧さが指摘され、『嘔吐』をめぐる考察と「贈与」をめぐる考察との間に「物質」といった用語以外に明確な接点が見いだせない理由もその不備に問題があるのではないかという意見が述べられた。また、『文学とは何か』で打ち出された倫理的概念としての「贈与」が『倫理学ノート』における「相互性」等についての内省を経て『聖ジュネ』で否定されるに至ったという従来どおりの見方を覆すには、論証にまだ説得力が足りないというコメントも寄せられた。この点について、私見では、「作家の非人称性」および「物質」、「物質の非物質化」という概念にいっそう精密な検討を加える余地があったように思われる。
厳しい指摘も含めて活発な議論が交わされたが、会場の雰囲気は新たに迎えた真摯な若手研究者に対する好意と今後の研究への期待に満ちたものであった。

次回研究例会のお知らせ

 第30回研究例会が下記のように開催されることになりましたので、ご案内申し上げます。多数の皆様のご参加をお待ちしております。

日時 : 12月15日(土) 14:00~17:00
会場 : 立教大学 池袋キャンパス 4号館 4405教室

研究発表1 「バリオナのミステール」
発表者:翠川博之(東北大学)
司会:岡村雅史(関西学院大学)
 
 要旨
「これこそ真の演劇だ、それは共通の状況で結ばれた観衆への呼びかけなのだ」(ボーヴォワール)と、その誕生が重大事件として語られる『バリオナ』。この戯曲は、しかし、サルトルの処女作でありながら長いあいだそれと認知されず、いわば私生児であり続けている。その理由について語るサルトルのディスクールは説明に一貫性がなく、しかもどこか語り口が情緒的に不安定である。「『バリオナ』が認知されなかったのはなぜか?」これを問題として設定し、その理由を作品の思想と文の分析から考察する。『バリオナ』が私生児であるがゆえに放つ魅力の所以についても考えてみたい。

研究発表2 

サルトル研究近況
モデレーター:澤田直(立教大学)

懇親会 17:30

非会員の方の聴講を歓迎致します。事前の申し込み等は一切不要です。当日、直接会場へおこし下さい。聴講は無料です。

サルトル関連出版物

・白井浩司 『サルトルとその時代』、アートデイズ、2012年9月
・『別冊水声通信 セクシュアリティ』、水声社、2012年8月
・海老坂武『戦後文学は生きている』、講談社現代新書、2012年9月


総会報告

昨年度の会計報告、本年度の予算案ともに承認されました。

会則の変更について
本年度の総会にて、会則の変更が提案され承認されました。
主な変更箇所は以下の点です。
1. 理事会の中に「代表理事」という役職を新たに設ける。
2. 理事会外部から会計監査を一人選出する。
本会報の末尾に、改正後の会則を添付しておきます。ご確認下さい。

学会事務局住所変更について
学会事務局が以下の通りに変更することになりました。また、会の公式連絡先として学会用のメールアドレスを作成します。以後、学会への連絡等はこちらのアドレス(ajes.office@gmail.com)を使用することになります。
新住所
〒171-8501 東京都豊島区西池袋3-34-1 澤田研究室

役員の改選について
 役員の任期の二年が過ぎましたので、本年度の総会にて役員の改選が行われ、承認されました。
会長:鈴木道彦(留任)
理事:岡村雅史、黒川学、澤田直、鈴木正道、永野潤、森功次(すべて留任)

新たな役職に関して、理事会から推薦され、以下の人事が総会で承認されました。
代表理事:澤田直
会計監査:翠川博之

会員向けメーリングリストの作成について
 会員向けのメーリングリストを新たに作成することになりました。例会に参加された方でメールアドレスをお伝えしていただいた方については、リストへの登録を開始します。会員の方で登録を希望される方は、お名前、ご所属を明記の上、事務局のメールアドレスまでご一報ください。
 本メーリングリストは、例会情報の連絡をするだけでなく、会員の皆様のあいだでの情報共有にもお使いいただる形で運用していきたいと考えております。シンポジウムのお知らせや、イベント情報の宣伝など、様々な形でお使いいただけるようにしますので、メーリングリストで流して欲しい情報などをお持ちの方は、担当理事(永野)までご連絡下さい。
 また、これまで会報を印刷したものを郵送でお送りしていましたが、メーリングリスト開始以降、会報をメーリングリストでも流すように致します。それにしたがい、会報郵送の停止を希望される方については、会報の郵送を停止します(もちろん、郵送を希望される方につきましては、これまでどおり郵送でお送りします)。郵送の停止を希望される方は、こちらもお手数ですが事務局までご連絡下さい。
 
サルトル学会ホームページの刷新について
 本理事会は、会のホームページを今後はより充実させていきたいと考えております。具体的には、サルトル特集が組まれた雑誌の情報、サルトル本人が執筆したものをまとめた文献情報、サルトル年表などをまとめていきたいと考えています。狙いとしては、会員の皆様の研究促進はもちろんのこと、授業での利用、日本におけるこれまでのサルトル研究を一般にも配信すること、などが狙いです。もし、上に挙げたような情報をデータでお持ちである、別のアイデアを思いついた、など何でも構いませんので、ご協力いただける方がおられましたら、担当理事(森)までご一報ください。
日本サルトル学会会則

 日本サルトル学会は一九九五年六月、鈴木道彦、海老坂武、石崎晴己、澤田直を発起人として、世代を越えたサルトル研究者の自主的組織として成立したサルトル研究会を改組改称したものである。会の活動の指針として、以下の会則を定める。


第一条 本会は日本サルトル学会Association Japonaise d’Etudes Sartriennnes と称する。
第二条 本会は会員相互の研鑽を通じて、サルトル及び関連分野の研究とその発展を図ることを目的 とする。
第三条 本会はこの目的を達成するために次の事業を行う。 1 研究発表会、研究会等の定期ならび随時開催。 2 会報、資料集の刊行。 3  サルトル関係資料、研究文献の情報整理及び紹介。 4 国内外の関連分野の研究団体との交流。 5 その他必要な事業。
第四条 本会は上記の目的に賛同する研究者をもって会員とする。 二、会員は本会の事業に参加し、またそれに関する意見を述べることができる。 三、会員は別途定める年会費を年度初めに収めるものとする。 四、三年にわたり会費を滞納した場合は、退会したものとみなす。
第五条 本会は年一回定期総会を開催する。また必要に応じて理事会の発議により臨時総会を開催することができる。総会は最高の議決期間であり、会の活動方針を決定し、理事会より必要な報告を受けかつ承認する。 二、総会は出席者の過半数により議決することができる。
第六条  本会に次の役員をおく。任期は二年とする。役員は総会の承認を受けなければならない。1. 会長  会長は本会を代表する。理事会の推薦に基づき、総会にて承認される。 2. 理事  若干名。総会において選出する。理事会は会の運営と事務にあたる。 3. 代表理事  代表理事は理事会を主宰する。理事会の推薦に基づき総会において選出する。 4. 会計監査 理事会の推薦に基づき総会において選出する。 二、理事会は総会において一般報告、会計報告その他の報告及び提案を行い、決定された方針を執行する。会計監査は年度事に会計を監査する。
第七条 本会則の改正は発起人、理事会あるいは出席会員の発議に基づき、総会の議決を経てこれを行う。
細則第四条三、 細則、年会費は 一般会員二〇〇〇円、学生会員一〇〇〇円とする。

付則
①本会則は2000年7月10日より施行する。
②2010年7月10日、一部改正
③2012年7月8日、一部改正
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:学問

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。